例年、2月の為替市場というのは大きなトレンド転換が起きやすい傾向(アノマリー)がある月です。理由は2つ。ひとつは各国の金融政策に変更が加えられる可能性があること。もうひとつは、ヘッジファンドが決算に向けて利益確定することです。両者が重なると、為替市場は真反対のトレンドになることもあります。
今回は、例年行われるヘッジファンドの決算売りについて詳細に解説し、2月市場の値動きの傾向を紐解きたいと思います。
2月は決算前で波乱相場
株式の世界では、「株は5月に売れ(sell in May)」という格言があります。その背景には、5月に海外ヘッジファンドが決算を控えて、利益確定売りをすることがあります。ヘッジファンドの実態はあまりよく知られていませんが、ともかく5月は株式相場が下落傾向にあることは確かで、すでによく知られているアノマリーです。日本市場もアベノミクスで海外勢が参加するようになってから、5月に株価が下落する傾向が顕著に現れるようになりました。
同様のことが、2月の為替市場でも起こります。過去を遡ってみると、2月に相場が大転換した出来事はいくつもありました。以下に例を見てみましょう。
起きた年 | 出来事 | 解説 |
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2006.2 | アイスランドショック | 高金利を背景に海外資本を集めていたアイスランド。投資が一斉に引き上げられて大幅下落。その後、デフォルト。 |
2007.2 | 世界同時株安 | 世界の株式相場が全て下落。上海市場が発端の模様。 |
2008.2 | ベアスターンズショック | 米証券会社ベアスターンズに端を発して株価下落。サブプライム問題がクローズアップ。 |
2009.2 | リーマンショック | リーマンブラザーズの破綻に端を発して、世界経済が低迷を始めた。 |
2010.2 | ギリシャショック | ギリシャ経済の危機を発端にリスクオフ市場に。 |
2011.2 | ドラギマジック | ドラギ総裁の通貨高懸念発言で、ユーロが大幅下落。 |
2013.2 | 日本株が大幅下落 | 「利益確定売りが相次いだ」と言われている。海外勢による一斉の売り。 |
上記の通り、2月の為替市場は荒れることが多かったことが分かります。建前上は、各々の出来事にそれなりの解説が加えられてはいます。ただ、例えばアイスランドの経済破綻については、ヘッジファンドの決算月であったことを考慮すると、裏に投資方針の転換があった背景が透けて見えてきます。
2月というのは、各国の金融政策に修正が加えられる可能性がある点もポイントです。新年1月には日米欧を始めとして各国の経済見通しが発表される訳ですが、これがうまい具合に行かないと、1月後半から2月に掛けて、修正や方針転換が加えられます。
決算前の利益確定でポジションが縮小した所に金融政策の転換が加わると、ヘッジファンドも投資方針の転換を強いられます。これが2月に波乱が起きやすい理由なのでしょう。それまで強気一辺倒だった市場が、2月に入るとポジション縮小傾向に入り、そして大国の方針転換に伴って一気に売りに傾くことはざらにあります。
四半期決算と45日ルール
ここで、なぜ2月や5月に決算前の利益確定売りが生じるのか、詳細な事情を解説しましょう。まず、背景には海外の投資機関が4半期決算を採用している事情があります。ヘッジファンドの決算月は、各機関によってまちまちのようですが、おおよそ3月、6月、9月、12月に集中しているようです。
上記の決算月から遡って、1月半から2ヶ月前にヘッジファンドは利益確定を始めます。理由は、45日ルールというものがあるためです。
- ヘッジファンドの45日ルール
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ヘッジファンドの顧客は、解約を申し出る場合、決算日から遡って45日前までに申し出なければならないという契約条項。
ヘッジファンドも顧客が解約してしまっては困りますから、45日ルールが適用される前に、利益の数字を作り込んできます。利益が出ている為替ポジションであっても決済して、利益に還元する訳ですね。成績を上げていれば、顧客の解約を引き止める材料になります。もしくは、既に顧客の解約が相次いでいれば資金そのものが減っていますから、ポジションの縮小を余儀なくされるという事情もあるでしょう。
上記を鑑みると、為替ニュースの読み方が変わってきます。「ヘッジファンドが決算前の利益確定売り」というニュースは、「決算末日から遡って45日が近づいているので、ポジション縮小に入ったな」と読み替えることができます。2月、5月、8月、11月に聞くことが多いニュースです。
2月の傾向と対策
以上の通り、ヘッジファンドの45日ルールを軸に、2月の傾向を語ってみました。この傾向を鑑みれば、いくつかの投資戦略を立てることができます。以下に、今年2015年のユーロ対トルコリラの値動きを例に、解説を加えていきましょう。緩和期待で売られるユーロと、高金利通貨として買われるトルコリラという対照的な組み合わせにより、顕著な値動きを見せています。
1月下旬に利益確定
前年から続いたトレンドが決算を前にして、一旦、収束に向かいます。買いポジションであれば、1月末から2月に掛けて、売り抜ける準備をするべきでしょう。トルコリラのようなリスク通貨なら、買いトレンドが下がってきた所が利益確定のタイミングです。
上記は、今年2015年のユーロ対トルコリラ(EURTRY)の為替チャートです。下向きがリラ買いで、上向きがリラ売りです。分かりやすいように、トレンドラインを引いています。
丸印が付いた部分が、利益確定の急所となりました。ECBの量的金融緩和発表で大きくユーロ売りリラ買いに傾いたチャートでしたが、利益確定に押されてトレンド収束に向かいました。ご多分に漏れず、1月末のタイミングでした。この辺りから、ヘッジファンドの利益確定が始まった事情が透けて見えるチャートの形です。
2月中旬に仕込み
もう一つの戦略は、ヘッジファンドの利益確定で下げた所を拾う戦略です。いわゆる「押し目買い」の技術です。「それまでの投資方針に転換がなければ」という条件付きですが、元のトレンドに戻ることが期待できます。3月以降も取引は活性化するので、場が枯れることはありません。
トルコリラ対ユーロなら、上記の丸印のポイントが買いの急所でしょう。やはり「トレンドラインが正しければ」という条件付きです。もっとも、トレンドラインが明確に現れていない通貨ペアであっても、RSIやMACDのサインを見て仕掛けてもよさそうです。
仕込みのタイミングとしては、バレンタインデー前辺りじゃないでしょうか。45日ルールが終わって、再度、トレンドが出始めても良さそうです。もしくは、慎重を期すなら、3月のECB理事会の開催日前後でしょうか。追加金融緩和の期待によって、ユーロ主導で動いても良さそうです。もちろん、他の金融イベントによって売りにしろ買いにしろ、トレンドが転換するようなら、それに付いていけばよいでしょう。バレンタインデー付近に変化が出始めることを頭に入れておけばOKです。他の通貨ペアでも応用を利かせてみてください。
まとめ
とかくFXというのは、為替レートにばかり注目して売買するトレーダーが多い金融商品です。ただ、それはデイトレードのような短期の取引ではうまくいきますが、スイングトレード~長期保有のような期間の長いトレードでは、ファンダメンタルファクターも考慮する必要があります。
ひとつとして、ヘッジファンドの需給動向という季節要因も考慮に入れると、為替市場の値動きが明確に見えるようになってくるでしょう。メンタル云々以前に、単に知っているか知らないかが株式や為替では重要なスキルです。需給動向が見えてくると、またひとつFXが面白くなりますよ。投信や外貨預金では味わえないFXトレードの魅力とも言えるでしょう。
※本記事は、管理人個人の主張を述べたものであり、内容の正確性を保証するものではありません。FXは自己責任です。読者の方においては、各人の裁量の範囲で取引を行ってください。