トルコの自動車産業の現状と課題、進出している自動車メーカー等をご紹介します。
トルコ産業は、トルコ絨毯に代表される軽工業がかつては盛んな国でした。しかし、エルドアン大統領率いるAKPの政策によって、重工業へのシフトが進んでいます。その中でも代表となるのが、自動車産業。欧州との関税同盟と隣国であることの地の利を活かして、自動車生産工場の地位を確立しようとしいています。
今回は、トルコの経済成長を担う主要産業として、自動車産業の現状と見通しをご紹介しようと思います。トルコに投資する可能性を探るみなさんにとって、成長産業の展望は興味のある点であると思います。
トルコ自動車産業の概要
トルコが自動車産業に力を入れていることは前述の通りです。その背景にあるのは、欧州の自動車産業の衰退でしょう。ヨーロッパの自動車サプライヤーとしては、ドイツのベンツやBMWをはじめとして、イタリアのフィアットやフランスルノーが有名です。もっとも、これらのメーカーですら長年のユーロ高に悩まされ続けていて、競争力を失いつつあります。いま、元気があるのは、トヨタのような海外に展開して現地に生産拠点を持つ自動車サプライヤーだと思います。
そのような訳で、欧州の自動車メーカーも海外生産の道を模索していました。生産拠点としては、必然的に新興国で人件費の安い地域が候補に挙がります。日本では、家電などを中国で生産している状況が良い例でしょうか。欧州の各サプライヤーも、近場に手頃な生産拠点が欲しくなりました。そこで手を挙げたのがトルコです。
トルコにとって有利なことは、欧州からほど近い位置にあることです。トルコは地中海の東側に位置しています。船便を使えば、同じく地中海の国であるイタリア、フランス、スペインに輸出が可能です。実際、欧州への輸出も盛んです。トルコでは、自動車生産のおよそ7割が輸出に振り向けられています。
そもそもがトルコという国は、天然資源がほとんどないので、産業が発展するには微妙な国です。しかし、自動車の生産というのは、実はあまり資源を必要としません。自動車というのは、作られた部品を組み立てることが主な生産工程である製品です。極端な話、輸入したパーツを組み立てるだけで、立派に生産が成り立ちます。しかも、電気や石油といったエネルギー資源もあまり必要としません。
参考記事:エネルギー事情で見るトルコの投資妙味
トルコに進出する自動車メーカー
トルコといえば、基本的に外資に頼った産業振興を政策として取っています。自動車産業も例外ではなく、外資系サプライヤーの工場を誘致することで、産業の振興を図っています。具体的には、トルコへの新規投資にインセンティブを付与する手段を取っています。外資系企業が工場や生産設備に投資した際、法人税などを優遇する政策です。
この政策により、世界の名だたる自動車メーカーがトルコに進出する結果となりました。具体的に名前を挙げると、以下の通りです。
- フォード(アメリカ)
- ジェネラルモーターズ(アメリカ)
- フォルクスワーゲン(ドイツ)
- ダイムラー(ドイツ)
- フィアット(イタリア)
- プジョーシトローエン(フランス)
- ルノー・日産(フランス・日本)
- トヨタ(日本)
- ホンダ(日本)
- 現代自動車(韓国)
面白いのは、欧州だけでなく、米国、日本、韓国の自動車メーカーも進出していることですね。どのメーカーも欧州市場に進出はしたいが、人件費が高くて元が取れない。そこで、近場のトルコに進出したという意図が見えてきます。以前はポーランド辺りも欧州の生産拠点となっていましたが、そろそろ飽和を迎えています。トルコのような新興国の成長性に期待する意図もあるのでしょう。トルコそのものが販売市場となる未来も期待することができます。
高付加価値の創出を目指して
ここまで、景気の良い話ばかり書きましたが、実は自動車の生産台数が増えるのは良いことばかりではありません。不思議なことに、トルコは自動車を作れば作るほど赤字が増えるという問題を抱えています。理由は、高い技術水準を必要とするパーツを輸入に頼っていることです。具体的には、エンジンやトランスミッションなどのコア部品と言われる単価の高い部品です。
冒頭に書いた通り、トルコでは組立工程が主な生産手段です。では、組み立てるパーツはどうしているのかというと、輸入に頼っているんです。組立工程なんて、(言葉は悪いですが)どこの国でもできる生産手段で、あまり利益を生みません。逆に、輸入する部品の単価が上がれば、赤字となる訳です。近年、トルコリラの為替レートがリラ安に触れていることは、周知の通りです。リラ安では通貨が高い価値を持ちませんから、部品の輸入には大変不利です。
そこで、トルコ政府が次に打ち出した産業政策が、高付加価値部品の現地開発です。エンジンやトランスミッションなど、単価の高い部品をトルコ国内で開発してもらうよう、海外の自動車メーカーに説得を始めています。これを見据えて、2012年と2013年の2回に渡り、投資インセンティブの拡大を発表しました。海外メーカーの生産拠点をさらに誘致して、トルコで生産する部品の質を上げようという政策です。
自動車メーカーも、最近のトレンドでは現地開発を押し進めています。各国特有のニーズに合った車種を開発するためです。そうなると、研究開発拠点を作る必要がある訳で、やっぱり投資が必要です。結論として、トルコ政府の提案と自動車メーカーのニーズはうまくマッチしていると言えるでしょう。
おわりに
今回、「トルコリラの為替投資戦略」として、いつもと変わった視点からトルコという国に投資する判断材料をご提供してみました。ただ、実は以前からトルコ政府は広報サイト「invest in Turkey」を通じてアピールしていたようですね。
参考:invest in Turkey(トルコ政府)
意外に投資で儲けるネタというのは、多岐の産業分野に渡るものです。たまには、経済以外の視点で投資を考えてみるのもよいのではないでしょうか。為替投資関連でも、過去の投資イベントは多岐の産業分野に渡っています。
- スペイン不動産バブル(不動産)
- サブプライム問題(金融工学)
- ITバブル(IT産業)
- シェールガス革命(エネルギー産業)
- スコットランド独立(社会人文学)
- ウクライナ問題(地政学)
管理人は本業で、自動車関連の部品メーカーでエンジニアをやっています。今回の調査は、職業柄の興味で行ってみました。トルコ投資を始めた明確な動機は覚えていませんが、トルコ産業の変化を知ったことがきっかけとしてあったのかもしれません。みなさんも、ご自身の職業分野で興味のあることについて、調べてみてはいかがでしょうか。