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ECB量的金融緩和を明言~新興国通貨買いの展望

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先日、世界経済を震わす一つの事件が起きました。ECBのドラギ総裁による量的金融緩和開始のニュースです。昨年から続くユーロ高に悩まされていたECBが、とうとう重い腰を上げました。

ECBが量的金融緩和を始めると、影響を受ける外為レートは、ユーロだけに留まりません。米国の量的金融緩和(QE2)でもそうでしたが、大国が量的金融緩和を行うと、諸外国の通貨レートにも大きな影響を与えます。新興国通貨も例外ではありません。トルコリラを始め、ブラジルレアルやインドルピーは、大きな通貨安の憂き目に遭いました。

しかし、今後始まるであろうEU圏の量的金融緩和はちょっと勝手が違いそうです。米国のQEとは逆に、新興国通貨高の構図ができあがると筆者は考えます。というのも、量的金融緩和によって、ユーロキャリートレードにうってつけの環境ができあがるためです。今回の記事では、ECB量的金融緩和の経緯と与える影響を絡めて、新興国通貨トルコリラの将来の見通しを練り上げていきたいと思います。長くなりますがお付き合い下さい。

ECB量的金融緩和の経緯

昨年2013年は、ユーロが大きく買われるという予想がされた年でした。理由は様々あります。ギリシャ経済の破綻が後退したこと、欧州各銀行のストレステストが一巡し、破綻のリスクが減退したことなど。EU経済の基盤の強さが確かめられたことが、昨年のユーロ高を実現したと個人的には考えています。

ユーロ高となって困っているのが、当人であるEU加盟の各諸国。通貨高となることで物価上昇が進まず(ディスインフレ)、ドイツを除く各国は成長停滞の状況に陥っています。唯一成長を続けている稼ぎ頭のドイツも、ユーロ高による輸出量の減少で、黒字が頭打ちになっています。

ユーロ対ドルチャートユーロ対ドルチャート

ECBはマイナス金利導入によるディスインフレ解消や、ドラギ総裁が量的金融緩和の実施を匂わすなどの手段を高じてきましたが、ユーロ高は止まらず、上昇する一方。かつて円高で悩んだ日本と同じように、デフレスパイラルに陥りつつあります。

ECBが遂に量的金融緩和を明言

前述のユーロ高問題に対する対策として、ECBが検討してきた最終手段が量的金融緩和の実施です。これは簡単な話、市場にユーロをじゃぶじゃぶに供給して、経済を促そうという金融政策です。米国では「QE」、日本では「アベノミクス」の名称で知られています。ECBでは、ドラギ総裁が「非伝統的手法」という呼び方をして、2014年初旬から、その存在を匂わせてきました。

しかし、意志決定の遅いEU諸国ですから、これまでは実現の有無が不透明なままユーロ高が続きました。それが、とうとう先日9月5日(金)の記者会見で、ドラギ総裁が実施を明言しました。

マリオ=ドラギECB総裁マリオ=ドラギECB総裁

これは大きなニュースです。会見の内容を紐解くと、カバーボンドなどの金融資産を買い入れることで、バランスシートを2兆ユーロから3兆ユーロに拡大するといっています。ユーロ圏の経済規模が1.5倍になれば、それはそれは大きなインパクトを世界経済に与えることでしょう。

そうなってくると、FXトレーダーとして俄然興味が沸くのが外為レートに与える影響です。読者の方が興味あるのは、「ECBが量的金融緩和になると外為トレードはどうなるのか?」という疑問でしょう。そこで今回は、トルコリラを扱うサイトとして、管理人なりに新興国通貨の将来展望を語っていきたいと思います。

バランスシート縮小と新興国通貨安

新興国通貨の展望を語る前に、ひとつ知っておかねばならない事実があります。それは、ECBのバランスシート縮小により、新興国通貨安となった過去の経緯です。ここでいうバランスシートとは、「経済規模」という意味ですが、「リスク選好度」と言い換えてもよいでしょう。実はこのバランスシートの縮小が、新興国の通貨安を招いた一因になっていたと考えます。

EUでは、2012年頃から銀行の財政破綻を防ぐために、圏内の各銀行に対してストレステストを実施してきました。ストレステストというのは、簡単に言えば「世界経済の変動に対して、銀行がどれだけ負担に耐えうるか?」という財政状況を調査することです。テストとは言え、クリアしない銀行は改善を求められます。改善する方法は以外と単純です。リスク資産への融資を減らして、無難な投資に資金を振り向けることです。これがECBの望んだ結果であり、その通りに欧州の投資規模は縮小しました。

バランスシート縮小と新興国通貨安バランスシート縮小と新興国通貨安

リスクの選好度合いが薄まれば、当然、リスク資産への流入資金も減ります。それまで、トルコリラを始め、ブラジルレアルやインドルピーなどの新興国通貨に注がれていた資金が、引き上げられました。結果として、昨年末から騒がれた新興国通貨安が起きた訳ですが、米国の量的金融緩和の方がインパクトが強いためか、あまり騒がれることはありませんでした。

量的緩和開始で新興国通貨通貨買い

前述の経緯を踏まえると、ECBによる量的金融緩和は米国のそれとは与える影響が異なることを推測することができるでしょう。米国QEでは米国に資金が集まりドル高となりました。しかし、EUの場合、金融緩和により余った資金は海外に振り向けられる可能性があります。

ヨーロッパ圏というのは、伝統的に金融業を生業としています。量的金融緩和が行われれば、確かにドイツのような製造業の国は国内設備への投資を行うでしょう。しかし、EU各国の銀行が行いたいことは明白です。利益の高いリスク資産への投資です。ストレステストでリスク資産に振り向ける資金を失った欧州の銀行は、これまで、利益を出すことができませんでした。銀行から資金を借り受ける投資機関も、金額規模を縮小せざるを得なかったことでしょう。そこにリスクフリーの公的資金が与えられるとなれば、当然、その資金の向かう先にはリスクの高い金融商品が含まれることでしょう。俄然、リスク選好の度合いは高まります。

そして、もう一つ。忘れてはならないのが、ユーロキャリートレードの存在です。

ユーロキャリートレードによるリラ買い

キャリートレードというのは、金利の安い通貨を借りて、金利の高い通貨に投資する手法です。かつて、円高要因の一つとなった投資手法「円キャリートレード」といったら、ピンとくるでしょうか。当時、低金利を続けていた日本円を借り受けて、オーストラリアなどの高金利通貨に投資するという手法が、諸外国の投資機関の間で広く行われていました。結果、いくら金利が下がっても円安とならずに、日銀が介入を続けたことを記憶されている方もいるかもしれません。

同じようなことが、最近、ユーロに対しても行われているようです。ユーロの銀行金利は、現在マイナス金利です(銀行に預金すると「保管料」を取られる状況)。逆に言えば、借り入れコストは安いため、ユーロを借りて高金利の新興国通貨を買うことで、金利差で黒字が出ます。「ユーロキャリートレード」の誕生です。

ユーロキャリートレードによる新興国通貨買いユーロキャリートレードによる新興国通貨買い

ユーロキャリートレードが行われれば、これまで引き上げられてきた資金が、再び新興国に向かうことが予想できます。トルコリラも例外ではありません。現在、世界一金利の高い通貨ですから、個人投資家だけでなく、機関投資家にとってもさぞかし魅力的なことでしょう。これまでは、オーストラリアやニュージーランドなど、比較的無難な通貨に資金が集まってきましたが、これらの通貨の供給量はもはや飽和状態です。これを踏まえると、トルコのような外貨を欲している新興国に資金が集まっても不思議はありません。

古典的な経済学では、金融緩和を行えばデフレが解消すると解説しています。しかし、その定説は、もはや近年は通用しません。むしろ、今回のECB量的金融緩和の実施は、却ってユーロキャリートレードの敷居を下げたのではないでしょうか。この点、ユーロ安となるかの先行きは不透明なままであるものの、新興国通貨は買われるであろう見通しは立てることができます。

まとめ

という訳で、2014年下期になって、ついにトルコリラ「買い」の材料が出てきました。これが管理人の相場間です。とうとう長期保有を始めるときがやってきました。

参考記事:トルコリラの長期保有戦略

本当の所を言うと、リラ買いのチャンスはもう少し先だと思っていました。しかし、先日の記者会見で、2014年下期が始まって早々に材料が出現する運びとなりました。実際の所、ドラギ総裁の記者会見後に、トルコリラは大きく買われています。以下は、9月5日(金)のチャートです。

USD/TRYのレート(ECB会見前後)USD/TRYのレート(ECB会見前後)

チャートは下にいくほどリラ買いです。対ユーロレートではなく、あえて対ドルレートで示してみました。というのも、ユーロの下落に関係なく、対ドルでもトルコリラのレートが上がっていることを示したいためです。なお、同日に米雇用統計の発表もありましたが、こちらにはほとんど反応していません。いかにドラギ発言のインパクトが大きかったかを物語っているようです。

以上、長くなりましたが、「ECB量的金融緩和の実施で新興国通貨買い」の理由を筆者なりにまとめてみました。記事を書きながらも若干興奮してしまい、かなり長い記事となりました。今度、因果関係だけをシンプルにまとめて、記事にしたいと思います。

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