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トルコリラ為替レートの材料~2015年下期に向けて

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この記事は2015年に掲載したものです。最新のFX予想とトルコ経済事情について気になる方は以下のページをどうぞ。

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2015年8月某日。トルコのエルドアン大統領が国会再選挙の意志を表明しました。これで意志決定機関の機能麻痺の状況には一応の目処がついた形になりました。再選挙の日程は2015年11月1日。つい数ヶ月前に行われた選挙は白紙に戻った訳です。

さらにイスラム国絡みで治安が悪化。爆破テロ事件と銃撃戦が重なったことで通貨リラは大幅下落。為替相場の対外レートは、昨年からの最安値更新記録を塗り替える事態となりました。

今回は直近のトルコリラ急落の要因を振り返ります。そこから派生して、「政治と戦争」「世界のリスク許容度」を題材に2015年下期の為替材料を考えていきたいと思います。

トルコ国会再選挙

トルコ与党のAKP党(公正発展党)が先の選挙で過半数割れとなったことは先日の記事でお伝えしました。その後は、第二与党のCHP党(共和人民党)との連立政権樹立に向けて交渉を続けていたとのです。しかし、これがまた難航し続けていました。挙げ句、連立交渉は決裂したことです。

[アンカラ 24日 ロイター] – トルコのエルドアン大統領は、連立協議が失敗したことを受けて国会の再選挙を決定した。大統領府が24日、明らかにした。

関係筋によると、エルドアン大統領は25日午前11時(0800GMT、日本時間午後5時)にダウトオール首相に会い、11月1日の総選挙に向けて暫定内閣の組成を要請する見通し。

冒頭に書いた通り、トルコの国会議員再選挙が秋に行われることになりました。上記のニュースはロイターからの転載です。このニュースに関してはtwitterでこっそりリツイートしたまま触れませんでした。解釈が難しかったので。

本来であれば、与党が過半数割れを起こした場合、与党は多党と連立政権を組むことで国会での発言権を強めます。トルコの場合、与党第一党が長らく与党を続けてきたAKP党で、第二党の候補がCHP党でした。日本で言うところの、自民党と公明党の関係ですね。しかしながら、交渉は難航したようです。結果的に決裂し、先のニュースの通り再選挙の運びとなりました。

上記の通り連立交渉が長引いたことで、トルコという国は長らく政治機能不全の状況にありました。国外の投資家から見た場合、投資対象とする国の政治的混乱というのは売り材料です。最近のトルコリラもご多分に漏れず、売り浴びせを受けました。それでも再選挙の表明が出されたことで、政治に関する悪材料は一応の目処が付いたと考えます。

イスラム国との戦争

トルコリラの下落を促したもうひとつの問題が国内でのテロと銃撃戦です。トルコがISIS(イスラム国)の殲滅作戦参加を表明した結果、テロ組織からの報復措置が行われました。現在確認されている事件は、以下の通りです。

テロ=国内の治安低下は、言わずと知れた売り材料です。地政学的リスクが顕在化したという表現をすることもできるでしょう。トルコはISIS本拠のシリアと国境を接しています。いずれの表現であっても、投資にとっては悪材料であることには変わりありません。ただ、本来はこの手の悪材料というのは一過性で終わるタイプの事件です。

問題となっている状況は、この手のリスク事象が新興国に類する国で相次いでいることです。ひとつはタイの爆弾テロ。もうひとつは、中国天津の化学工場火災です。複数の事件が相次いだことで、世界的な投資マインドは否が応にも低下しました。

戦争に関して補足すると「近くの戦争は売り。遠くの戦争は買い。」という投資の格言があります。繰り返しになりますが、トルコはシリアと国境を接しています。近くの戦争に当たる訳ですね。殲滅作戦への参加表明、さらに国内の治安低下と、直近でトルコ売りの材料とされました。

産業振興に限って言えば戦争には良いこともあります。軍需が増えるためです。加えて、トルコは欧米率いる連合国側についています。長い目で見れば、先進国との良い外交カードになることでしょう。戦況次第では、目先の悪材料が将来の好材料に変わる。そんな期待を管理人は抱いています。

米国利上げ観測後退と外的要因

視点をトルコ国外に向けてみましょう。ここに重要な問題が起きました。中国発の世界同時株安です。これに伴って、米国の9月利上げが絶望的になりました。

量的金融緩和策の出口戦略として、9月の長期金利利上げを以て終了との見方が長らく市場のコンセンサススでした。ところがFOMC議事録公表後から暗雲が漂ってきたのが最初の動きです。議事録公開後の各社ニュースを見返すと、利上げの時期尚早との意見が参加者の多勢を占めているようです。その原因は、直近の雇用水準(雇用統計・賃金水準)の指標が低下しているからにほかなりません。

そこへ来て、米国ダウ市場を含む世界的同時株安が勃発した訳です。これでもう、市場は大混乱です。もう、このタイミングで利上げを実施しても、市場の混乱を助長するだけです。

9月の時期を逃すと米国はもう冬の季節です。寒波や、それに伴う雇用水準の低下のリスク、さらにクリスマス休暇到来など。利上げ実施には難しい要因が増えるばかりです。そのような先行きの不透明感は、市場のリスク回避を招きます。トルコのようなエマージェンシー市場にとっては、リスク回避=悪材料になります。

ここまでの資源価格の低下(=資源国通貨の下落)、新興国投資の引き上げ(=新興国通貨の下落)は、米国の量的金融緩和が招いていると言っても過言ではあります。そこにきて、一段の不透明感。これはトルコリラ含め、新興国投資を行うにはちょっと難しい状況になってきました。

材料出尽くしと折り込み待ち

以上の材料をまとめると、以下の通りになります。

  • トルコの政治問題は再選挙で目処(材料出尽くし)
  • 国内のテロと治安問題は戦況次第(要経過観察)
  • 米国利上げ後の投機マネー流入は延期(折り込み待ち)
  • 投資マインド低下による資本流出(要経過観察)

上記は悪材料の消化に関するまとめです。一方では、好材料も残っています。以下の通りです。

  • 再選挙後の新政権樹立に対する期待(折り込み待ち)
  • 原油価格と資源価格低下によるGDP向上(折り込み待ち)
  • 同じく物価安とインフレ率低下(折り込み待ち)
  • 投資マインド低下によるドル安(要経過観察)

ドル安に関して補足しましょう。トルコリラの下落は世界の資本が米国と米国株に向かうことが主要因となっています。ドル高による相対的な先進国通貨安です。米国株に対する投資マインドが低下すれば、ドル安=相対的なリラ高になるであろうという消極的な期待材料です。ただし、同じ理由で安全通貨の円は買われる(=円高でトルコリラ円のレートは低下する)点は注意が必要です。

トルコリラ各通貨ペアの見通し

最後に先進国の経済政策・経済状況を交えて管理人なりの見方を書きましょう。トルコリラと対になる通貨の経済状況を踏まえて一言コメントを記載します。個人的には、ざっくり、以下のような相場を予想しています。

USD/TRYレート

直近では米国からの資金流出でドル高一服となりそう。9月に米国企業の決算が控えている点もドル安の要因になり得る。下落トレンドは、短期的には打ち止め。ただし、長期の下落トレンドが終わった訳ではない。

利上げ時期は来年3月に後退。それまでに底打ちが確認できれば上等。万が一、9月に利上げが実施されたら大混乱。その場合は混迷期が続きそう。

EUR/TRYレート

4月から続いた上昇トレンドが終わってしまった。対ドルで売り込まれたユーロが買い戻される可能性。世界的な混乱の余波でECB金融緩和が停滞するリスクも。

結局の所、欧州経済とトルコ経済の綱引き。原油安が早急に経済に反映されれば、トルコ側に旗が上がりそう。もっとも、不透明感は強い。直近の値動きを見る限り、対ユーロでは買いにくい。それでも緩和策によるユーロ安(=相対的なリラ高)期待は残る。

TRY/JPYレート

円高・円安のトレンドが支配的。リスク回避の円買い・円高がどこまで進むか。トルコリラ円の相場というより、世界から安全通貨の日本円に避難してきた投機マネーが、再び出ていってくれるかの問題。

経済面では、原油安で日銀の物価上昇目標達成が絶望的。その点、追加金融緩和が望まれる。もし、あればサプライズ。黒田バズーカに淡い期待を抱いている。

チャート的には、直近で1トルコリラ=40円のサポートラインに達した。サポートラインによる防衛が確認できれば、長期保有の核となるポジションを仕込みたい。ただし、飽くまで「確認できたら」の話。

以上の通り、今回は材料と考えていることだけ並べてみました。正直、見通しを立てようにも、世界経済が混乱しすぎています。相場に足を踏み入れるにも、なかなかの勇気が必要ですね。それでも管理人は両足突っ込む気でいます。ここが腕の見せ所というヤツです。