この記事は2014年に掲載したものです。最新のFX予想とトルコ経済事情について気になる方は以下のページをどうぞ。
9月に入ってトルコリラの為替相場も動き出してきました。大小さまざまな取引ネタがありますので、ここはひとつ、外為レートを動かす要因をまとめておきましょう。2014年下期、トルコリラのFX(外国為替取引)ネタは以下の通りです。まだコンセンサスが形成されていませんので、私見を交えて、解説していきます。
ECB量的金融緩和の行方
前回の記事では、ECBのドラギ総裁による量的金融緩和について触れました。ユーロ圏の量的金融緩和が実施されれば、ユーロ売りトルコリラ買いの見通しが立ちます。しかし、ドラギ総裁の会見から1週間。ここに来て関係者の発言がトーンダウンしてきています。以下、ロイターより抜粋。
[フランクフルト 11日 ロイター] – 欧州中央銀行(ECB)のコンスタンシオ副総裁は、ECBは巨額の国債を買い入れる量的緩和(QE)の実施を余儀なくされる状況を望んでいないが、その可能性は排除できないとの考えを示した。11日付の独紙Boersen-Zeitungに掲載されたインタビューで述べた。
副総裁は「最近講じた追加緩和策が十分であって欲しい。だが責任と責務の観点から、国債買い入れの可能性を排除できないのは確かだ」と述べた。
その上で「その意味するところも承知しており、実施に追い込まれる状況は全く望んでいない」とした。
ECB、QEの可能性排除できず━副総裁=報道(ロイター)から
ユーロ圏の問題を振り返ると、そこには2012年頃から顕在化してきたユーロ高があります。ユーロ高により、対外的に輸出は減少。ECBとしては、これまで続けてきたマイナス金利を含む政策金利の調整で、通貨高をコントロールしてこようとしてきました。
しかし、政策金利を引き下げても、通貨高が改善されないことは、日本人が一番よく知っていると思います。FXに携わるトレーダーの読者の方には、長らく円高が続いた事実は記憶に新しいところでしょう。
個人的には、どうにも欧州の持つ保守性という悪いところが出ているように思います。文化に限らず、経済政策にも保守的な手法を好む傾向あり、いまだ量的金融緩和にいまひとつ踏み切れない思いがあるようです。ただ、日・米が量的金融緩和でないと経済の停滞を打開できなかったところを考えると、欧州が金融緩和を余儀なくされるのも時間の問題であると考えます。
ECBの政策によるトルコリラの見通し
ECBの量的金融緩和が実現した場合、将来的にはトルコリラ高の展望となります。欧州圏内で飽和した資金が、再び新興国通貨への投機に向かうためです。
量的金融緩和のそもそもの目的がユーロ安への誘導であるので、ユーロ安リラ高への見通しも立ってきます。政策が機能し、ユーロ安圧力が強まれば、相対的にリラ高となるでしょう。トルコリラを対ユーロで買ってみると面白いかもしれません。ユーロのマイナス金利により、金利差によるスワップポイントが高いことも魅力です。
懸念すべきは、ECB内の意志がまとまらず、量的金融緩和に踏み切れない場合です。その場合、現在進行形のマイナス金利だけがクローズアップされます。
マイナス金利が続くと、ユーロを借りて新興国通貨に投資する「ユーロキャリートレード」の動きが強まります。貸し出し金利の低下により、ユーロの調達が容易になるためです。ユーロキャリートレードが進むと、ユーロの需要が増えるため、ユーロ高が進みます。かつて円キャリートレードに悩まされた日本と同じ道を辿る訳です。このケースでは、新興国通貨が買われるものの、ユーロ高も進むため、読めない展開となってしまいます。
差し当たっては、次回のECB会合後に計画が発表されるようです。トルコリラ対ユーロの長期保有の見通しは、その後に見えてくることでしょう。
米長期金利の利上げ観測時期
最近のアメリカ経済のもっぱらの話題は、長期金利の利上げ時期です。これまで続けられてきた米量的金融緩和(QE)の出口戦略となるためです。ニュースを読むと、米量的金融緩和の出口が2015年第2四半期という観測が強まっています。
[サンフランシスコ 12日 ロイター] – 米連邦準備理事会(FRB)が来週16─17日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、資産買い入れプログラム終了後も事実上のゼロ金利を「相当な期間(considerable time)」維持するとの確約を解除し、来年6月の利上げ開始に向けた下地を整えるとの観測が、有力エコノミストの間で高まっている。
(中略)ただ、政策声明の文言変更をめぐっては、依然さまざま思惑が飛び交っている。声明から「相当な期間」の文言が削除されれば、早ければ3月にも利上げが始まるとの観測が高まる可能性がある。
16─17日米FOMC、「相当な期間」削除との観測高まる(ロイター)から
どうやら、利上げ観測の時期は、4月~6月の第2四半期とあたりが有力のようです。来年のこの時期に、米量的金融緩和は終了すれば、経済は「緩和」から「引き締め」に舵が切られ、貸し出し金利が上がり始めます。
直近では、出口戦略に対して様々な憶測が飛び交うものの、往々にして「FRBは利上げ時期を早めそうだ」というコンセンサスが取られているようです。
米長期金利の利上げとトルコリラ
米金利の利上げに関してのニュースは多く見られるものの、その後の経済動向について語っているコラムはあまり見られません。この点、自分で予想するしかなさそうです。
米長期金利が上がると、トルコリラは買われます。筆者は、このような矛盾したように思える予想を立てています。
一般には、金利が上がれば、投資・投機は抑えられるという知識を社会の授業では習います。しかし、それは過去の常識であるというのが、筆者の意見です。もはや、経済は金利だけで動く時代ではありません。どこに金が集まり、どこから出るのか?それが重要なポイントだと考えます。
では、米金利の利上げが始まると、どこからどこに金が動くのか?それは「どのような資産が儲かるのか」という視点で考えると分かりやすいところでしょう。
これまで、FEBによる量的金融緩和によって、投機的な資金は債権から株式というリスク資産に移りました。次のステージはよりハイリスクな資産=新興国投資です。この辺の事情は、以下の記事に詳細を記しましたので、参考にして頂ければ幸いです。
参考記事:金利上昇で新興国投資をするファンドの事情
トルコの政策金利
直近では、9月25日に経済政策会合が催される予定です。注目されるのは「エルドアン元首相が大統領になって、どのような経済政策を取るのか」という点です。
これまで、エルドアン氏は首相時代に金融緩和を唱えて、トルコ中銀に利下げ要求を行ってきました。一方で、リラ安を打破したい中銀は、今年の始めに大幅な利上げを実施しています。結果、いまだ高金利は維持されているものの、段階的に利下げする傾向が続いています。
ただ、エルドアン氏が利下げを要求してきた背景には、大統領戦に向けて、経済政策をアピールする狙いがあったためと言われています。この点、無事、大統領に選ばれた現在、利下げ要求はトーンダウンしても良さそうです。エルドアン大統領の直近の目標が、大統領権限を拡大するための憲法改正である点もポイントです。
個人的には、しばらく金利を上げたままの方が、うまくリラ高に誘導することができるだろうという意見を持っています。前章までで述べた通り、投機的資金が新興国に戻ってきてからの利下げの方が、通貨レートは安定することでしょう。
チャートで読むトルコリラの行方
最後に、直近のチャートから、トルコリラ為替相場の今後を見通してみたいと思います。以下は、トルコリラ対ドル(USD/TRY)の日足チャートです。
チャートは上に行くほど、ドル買いリラ売りです。ご覧の通り、直近ではレンジ相場をブレイクし、リラ売りの動きが強まっています。
ポイントは、USD/TRY=2.2000~2.2250に溜まっているポジションの量です。横に延びるバーが、過去にMT4のティックが動いた頻度を示しています。最近、新たに導入してみました。この量が多いレート帯では過去に取引が活性化した=壁になりやすい価格帯であると言えます。株式でいうところの「価格帯出来高」といえば分かって頂けるでしょうか。
この価格帯に注目すると、今後USD/TRY=2.2250までは、リラ売りを押し返す動きがありそうです。しかし、リラ売りの勢いが止まらず、USD/TRY=2.2250を上抜ければ、再び、トルコリラ再安値を狙うポジションです。
現在のトレンドを見れば、しばらくはリラ売りでしょうか。当たるか分かりませんが、筆者はリラ安の相場感を持っています。将来のリラ高に期待はしているものの、今はリラ買いしても大きな値動きはなさそうなので、面白くありません。
まだ、しばらくはリラ安となりそうですが、それもまた一興です。年始のトルコリラ最安値を逃した方もたくさんいらっしゃることでしょう。筆者もその一人です。これも「押し目」と考えて、来るリラ高の大波を待とうと思います。