6月18日にFOMC(米金融会合)が開催され、その後、米国と日本で株高となる状況が生じました。これは、FRBのイエレン議長が米株の割高感を否定したことによると言われています。
結果、為替市場もリスクオン相場がスタート。金利通貨である豪ドルやNZドルが買われつつあります。しかし、同じ高金利であっても、トルコリラの延びはイマイチ。むしろ、リラ売りに傾いた印象があります。これは、なぜでしょうか。
今回は、リスクオン相場であってもトルコリラが売られるメカニズムをひも解いていきたいと思います。米金利の動きからスタートして、経済要因の因果関係を追っていきます。内容は、以下の通りです。
FOMCの市場予想~ハト派かタカ派か
まず、FOMCの記者会見が始まる前の市場の焦点を振り返ってみましょう。FOMC前に市場が予想していたのは、イエレン議長率いるハト派が低金利を維持するとの見方です。以下は、ロイターからの転載です。
[東京 16日 ロイター]今週の外為市場では、狭いレンジでの神経質な値動きが予想される。イラク情勢の先行きが不透明なことに加え、週後半には米連邦公開市場委員会(FOMC)を控えている。
(中略)19日(日本時間)には、FOMCによる声明・経済見通し発表が予定されている。「米国では足元の雇用は強い。テーパリング(量的金融緩和の縮小)は既定路線」(邦銀)との見方が多いが、米雇用統計など経済指標の強い数字を受けたタカ派の連銀総裁らによる早期の利上げへの言及が目立つとの指摘は多い。連邦準備理事会(FRB)が利上げに前向きなスタンスを示すかにも関心が寄せられる。
現在、市場の関心は米金利の行方です。米金融緩和縮小が進めば、その出口として貸出金利の上昇が控えています。いずれは来る事態ですので、トピックスはその時期です。市場予想では、早期利上げがペース維持かで議論が展開されていました。
FRB内には、タカ派とハト派がいます。一般に、タカ派というのは積極派。ハト派というのは穏健派を示します。金融緩和縮小の議題に関しては、タカ派が早期利上げ推進派、ハト派が利上げ消極派という意味で使われています。
「米雇用は順調に回復しながらも、利上げにはまだ早い。」これが現在のFRBの見解です。イエレン議長がハト派であるためか、はたまた経済指標が予想以上のパフォーマンスを見せていないためか、FRBは積極的に利上げをする姿勢は見せていません。ハト派ペースによる既定路線維持が、大方の市場の予想でした。
FOMCの焦点~利上げ観測は後退
上記の予想があるなか、18日・19日と米FOMCが開催されました。結論から言うと、「市場の予想通り」。ハト派による縮小ペース維持で、利上げ観測は後退しました。
この結果、何が起きたかというと、株高です。同じく、ロイターからの転載です。
[パリ 19日 ロイター] – 19日の欧州株式市場は上昇して取引を終えた。米連邦準備理事会(FRB)が金利の見通しを変更し、長期的な水準はこれまでの想定よりも低くなるとしたことが好感された。
(中略)FRBは18日に連邦公開市場委員会(FOMC)の声明を発表し、米経済が回復を続けているとの見解を示した。2015年の政策金利の水準を3月の見通しから引き上げた一方、長期見通しは下方修正した。
(中略)グローバル・エクイティーズのデービッド・ティボルト氏は「全体としてハト派的な内容で経済見通しも予想よりも弱かった、これは株価にとって良いことだ。中央銀行は依然として市場を大きく動かしている」と述べた。
こうした中、銀行株が特に好調だった。
金利引き上げが延期されると、株高となる。一見、不思議な因果関係ですが、現在はこのメカニズムが成立しています。これは、機関投資家のリスクオン・オフの姿勢が金融政策の引き締めの度合いで変化するためです。機関投資家(金融ファンド)は、資金調達の多くを銀行からの借り入れに依存しています。彼らにとって、金利の上下は死活問題なのです。
金利レートが上がると、銀行の貸出金利も上昇します。貸出金利が増えれば、機関投資家はコストが増えます。結果、資金調達の規模を減らさざるを得ません。今回の利上げ延期は、機関投資家にとってハッピーなニュースであったのかもしれません。彼らの一部は、資金調達の目処が立ったのでしょう。リスクテイクを遠ざけていた株式市場に、再び資金が流れ込みました。
米金利とリスク通貨の関係
話を為替に戻しましょう。株式に資金が戻ったのはよいものの、リスク通貨・新興国通貨の為替レートは、イマイチパッとしません。では、このメカニズムを紐解いていきましょう。株式のリスクオン相場から、深く突っ込んで考える必要があります。
結論から書きましょう。トルコリラのような新興国通貨が買われない原因。それは、「利上げ観測後退で、ファンドががんばらなくて良くなったから」です。
金融資産は、リスクの度合いに応じて大きく3種類の分類をすることができます。
- 低リスク資産
- 中リスク資産
- 高リスク資産
金や債権、預金など。
株式。加えて、最近では豪ドルのような緩い金利通貨。
外国為替。特に新興国通貨。
このうち、トルコリラは「高リスク資産」に分類されます。これは、個人投資家に限らず、機関投資家にとっても同様です。日本の銀行や投資ファンドでも、トルコリラのようなハイリスク通貨の運用は嫌がります。
必然、株式のような(相対的に)リスクの低い資産で利益を上げることができるのなら、それで十分です。あえて難しい新興国通貨に投資資金を振り向ける必要はありません。簡単な話、株式市場にまだ伸びの余地があるのなら、「無理をしなくて良い」のです。特に、今回のFOMCで利上げ観測(=利上げの時期)が後退したため、投資機関にとってもリスクテイクの時期を先延ばしにすることができました。
高リスク資産が買われるようになるためには、利上げが必要です。トルコリラが買われるときは、投資機関の利子コストが増えて、無理をしてでもリスクテイクをする必要が生じたときです。言わば、バブルが到来が必要条件であると言えるでしょう。
この辺のメカニズムについては、以前の記事「金利上昇で新興国投資をするファンドの事情」に図解付きで記載しました。
新興国通貨の相場見通し
以上の通り、FOMC前後の市場の受け止め方と為替・株式が動くメカニズムを解説しました。では、筆者個人の相場観はどうなのかと言うと、これは断然「リラ売り」です。その根拠は下記の通りです。
- FOMCの結果、利上げ予測後退(今回記事)。
- トルコ中銀による利下げ(過去記事)
- 投資機関によるリラ下落説(過去記事)
- チャート的に対ドル・対ユーロで天井
- 夏休暇(バケーション)前にリラ買いポジションを積むとは考えにくい
休暇について補足すると、7月から海外勢の長期休暇が始まります。長期休暇に入ると相場をいじることができないため、トレーダー達はポジションの解消を始めます。消極的になる訳です。トルコリラの為替相場では、アクティブトレードが「リラ買い」ですから、トレーダー達が消極姿勢を取れば「リラ買いポジション解消」が進むと考えます。
特に、7月、8月を跨いでのリラ売りトレンド継続を予想しています。長期的な下落相場が続くというのが、筆者の相場観です。少なくとも、トルコリラのボラティリティは低下するでしょう。
我々、個人投資家にとって、リラ売りとなると面倒なのがスワップポイントの支払いです。おそらく、多くの方が支払いスワップの安い証券会社を探し始める頃でしょう。筆者もそろそろ、ヒロセ通商に資金を移すことを考えています。
※FXは自己責任です。為替取引は、自分の責任で行いましょう。