2017年も下半期に入りました。トルコリラの為替レートは年初の下落局面以降、底打ち感が出ています。トルコ株に至っては新興国投資への再帰により、むしろ好調とも言える値動きを見せました。
今回は、そんなトルコ経済の動向を左右するファンダメンタルズ分析をしたいと考えます。題して「2017年のトルコ経済を示すキーワード」。ポイントとなる経済ファクターを挙げ、管理人個人の分析を加えていきたいと思います。
2017年上期のトルコ経済概要
最初に2017年前半のトルコ経済を振り返ってみましょう。トルコリラの為替レートを基準に考えると、2017年の年末から年始に掛けて為替レートの大幅な下落が見られました。シリア問題を含む様々な要因がありますが、直接的には2017年の経済成長が停滞するとの見方が出たためです。
しかしながら、いざ上期を終えて見ればチャートに示される通り、トルコリラの為替レートには底打ち感が見え始めています。背景にはトルコ中銀の為替介入やシリア反体制派との停戦協定締結、意外に伸びていたトルコ国内の内需といった要因があったようです。
上記のチャートは、トルコ市場の株式指数であるBIST100の価格推移を示しています。冒頭に書いた通り、株式指数は年初から意外にも伸びています。株式価格はその国の経済動向を先取りする傾向があります。株式指数が経済動向を示すバロメータであるとすれば、トルコ経済は意外にも好調だと考えて良いのではないでしょうか。
トルコ経済を読み解くキーワード
さて、トルコ経済の概要を把握したところで、今後の動向を読み解くカギを探ってみましょう。ファンダメンタルズ分析の対象として、3つのキーワードを挙げたいと思います。ざっと言って、トルコのインフレ動向、米国政権の実施力、先進国のQE縮小がトピックスだと考えます。
※以降の内容は筆者の個人的な判断に基づく考察です。
キーワード1:インフレ率
最初にトルコのインフレ率について。インフレ率については消費者物価指数(CPI)という経済指標が発表されています。簡単に言って、一般消費者が購入する日用品の値段を示す数値です。この消費者物価指数が直近で12%の高水準に至る状況を見せています。
消費者物価指数が高くなる理由は、通貨リラの価値が減少している=インフレが進んでいるためです。新興国通貨の場合、往々にしてインフレは悪ですので各国の中銀は対策を打ちます。トルコも例外なく、実質的な金利を引き上げて通貨価値の減少に歯止めをかけようとしています。
ここに投資の面白みが見えてきます。本来的にインフレが進んだ場合、中銀の政策は「利上げ」になるはずです。ところがアナリストの予想は、政治的な背景を鑑みて「利下げ」と断じています。中銀はエルドアン大統領の利下げ圧力にさらされているので、これ以上の利上げを実行することが不可能という見方ですね。
ロジカルに考えれば利上げ。政治的に考えれば利下げ。巷では政治的な背景ばかりを根拠に利下げ予想が出されています。ただ、個人的には利上げ・利下げの断定的な予想は不可能に近いと考えます。むしろ、根拠なき利下げの市場予想が織り込まれほどの場面(例えば中銀発表前)では、リラの為替レートに割安感が出るのではないかと考えています。
キーワード2:トランプ減税
トランプ政権と書かずに、あえて減税策に焦点を絞りました。トランプ大統領は就任当初から大規模減税をコミットしていました。しかしながら、閣僚が次々に入れ替わり、また職務を担当する官僚が決まらないなど、政権の存続すら危ぶまれています。そこで焦点になるのが、減税策の政策実行力です。
大統領選終了後の年末にはトランプ相場で各国の市場がリスクオンの姿勢を強めました。そこで期待されていたものはトランプ大統領の新政策であり、減税策もその中に含まれていました。結果、米国株式も好調でリスクオンのドル高となった訳です。
実はこのドル高、新興国通貨にとってはマイナスでした。トルコを始めとした新興国に投資する側から見れば、トランプ大統領の政策はうまくいって欲しくなかったのです。対ドルレートで相対的に自国の通貨価値が引き下げられるためです。むしろ、トランプ政権がうまくいかない方が新興国経済にとってはプラスになるのでしょうか。当初から批判を浴びていたメキシコペソがトランプ政権の先行き不安と共に値を戻している。この状況が新興国vs米国経済を示す典型的な例を示しています。
そのような訳で、新興国通貨のレートを左右する外的要因として「トランプ減税」は外すことのできないキーワードと考えます。
キーワード3:テーパリング
最後のキーワードはテーパリングです。意味するところは、日米欧の中銀が量的金融緩和(QE)をどのような形・タイミングで縮小させていくか(=テーパリング)という話題に対する関心です。「緩和規模の縮小」とか「バランスシートの削減」という単語で表現されることもあります。
QEの縮小で最も話題に上がるのは、米国経済委員会(FRB)で議論される金利引き上げのタイミングでしょう。利上げ=経済を緊縮する方策ですから、FRBの政策に応じて米経済に対する見通しも変わってきます。
前章の続きになりますが、新興国通貨にとっての米国の金融緩和は早々に縮小して欲しい対象でした。世界の投資資金を米経済に吸い取られて、新興国になかなか回ってこなかったためです。ただ、その状況も2017年に転換期を迎えそうです。今や、各国の中銀に対する期待は、いかに金融緩和の縮小をソフトランディングさせるか?という安定面に向けられています。
米国を例に書きましたが、欧州(ECB)と日本(日銀)についても同様です。毛色は多少異なるかも知れませんが、テーパリングに向かう状況は確かです。目先ではユーロ高が懸念されいますから、関係者から縮小を仄めかす発言が飛び出すかも知れません。
トルコリラに関しては、まだユーロで底打ちが完成していないようです。ここから欧州経済政策のテーパリングがホットトピックスになってくれば、対ユーロでのトルコリラ買いも面白いかも知れません。、
新興国投資の展望は
以上の通り、トルコの2017年を見通すキーワードを基準に管理人なりの考えを述べてみました。基本的にリラの行く末は楽観視していて、それを示すかのように対ドル、対円のトルコリラチャートには上昇トレンドを示すシグナルが出ています。
実は新興国の中でも、トルコはかなり出遅れ感のある通貨です。理由はシリア問題の影響を最も受ける隣国であったためでしょう。昨年度から2017年に残るリスクキーワードはシリア内紛になると主張してきました。そして、その通りになってしまいましたが、リラに底打ち感が出る所までも予想通りであったのは不幸中の幸いです。
もう少し細かい事情を知りたい方は、昨年の記事も併せてどうぞ。
繰り返しになりますが、個人的には新興国通貨に対しては安心感を持って臨んでいます。幸いにも日米欧+先進国の経済はリーマンショックから順調に復調しました。次に景況感回復の波が訪れるのは、出遅れていた新興国でしょう。2017年は下期から、先進国の需要がエマージェンシー市場にプラスの恩恵を与えそうだと考えています。
そのような訳で、管理人もスワップポジションを維持したままです。一方で、これからの仕込みを考えられている読者の方は以下のページも参考にしてください。スワップポイントの各社一覧表を毎月更新しています。