先日、日銀の追加金融緩和が決まり、日本円は大幅な円安傾向となっています。加えて、欧州圏ではECB(欧州中央銀行)が金融緩和の具体化をすすめ、米国ではFRB(米連邦準備理事会)が量的金融緩和の終了を決定しました。日米欧と金融緩和策の方向性が定まった形で、これらの政策を軸として、為替が大きく動き始めようとしています。
果たして、各国の金融緩和策に対して、マイナー通貨の動きはどのような影響を受けるのでしょうか。今回は、マイナー通貨の代表であるトルコリラを焦点にして、為替レートの今後の見通しと各国の金融緩和策の影響を見通していきたいと思います。
米金融緩和終了と対ドル相場
アメリカ金融政策の直近の出来事は、FRBが第3次量的金融緩和の終了を明言したことです。つい先日のFOMC(金融政策会議)において、資産買い入れプログラムの終了を決定しました。これによって、次の焦点は金融引き締め策の開始。つまり、利上げの時期が話題の焦点になっています。
従来は、米金融緩和の実施によって、世界の資産が米ドルに集まるという傾向がありました。根本的な理由は、米国の株高でしょう。金融緩和策で活況となった米NASDAQ上場株式を買うために、世界の資金がアメリカに集まりました。結果、各国の通貨に対して、米ドルは大幅なドル高となっています。
一方で、そのマイナスの影響を受けたのが、トルコリラをはじめとする新興国マイナー通貨です。ドル高の影響により、トルコ、ブラジル、インドなどの先進国通貨が相対的な通貨安となりました。トルコリラも2013年1月に対ドル最安値を記録しています。
今回、QE3終了が決まりましたが、しばらくは利上げを行わないとの方針をFRBは示しています。このため、しばらくは米株の高騰、そしてドル高は止まらないとの見通しが強まっています。このため、年末・年始にかけて、トルコリラは対ドルで再び安値に進むでしょう。
米金利の利上げは、2015年6月以降との見方が強まっています。トルコリラが対ドルで上昇基調に転換するなら、その後でしょう。米利上げとトルコリラ高の関係については、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:金利上昇で新興国投資をするファンドの事情
欧州金融緩和策と対ユーロ相場
米国が金融緩和策終了なら、新たに量的金融緩和を始めたのがEU圏です。9月に決定していたABS(資産担保証券)やカバーボンド(無担保社債の一種)の買い入れが実行に移されました。長らく議論ばかりが続いていた金融緩和策が、具体化し始めたのです。
金融緩和策を行う目的は、ユーロ安を誘導するためです。欧州では日本と同じように、通貨高による輸出量減少に頭を抱えていました。EU各国は貿易赤字、稼ぎ頭のドイツですらわずかな黒字でしかないため、国際競争力の低下が大きな課題であったのです。かつて、円キャリートレードで円高が止まらなかった日本と同じように、ユーロキャリートレードがユーロ高に拍車をかけました。2013年に大幅なユーロ高となっています。
欧州の金融緩和策を一言で表すと、「リスク回避からリスク選好のための金融緩和」と言ってよいかも知れません。リーマンショック以降、欧州は財務健全化のために、銀行のバランスシート縮小(=取り扱い資産の縮小)を続けてきました。結果、投資は鈍り、現金残高が増え、デフレへの道を歩みました。リスク回避の政策です。これを覆し、今回の金融緩和策では、ECB主導でABSやカバーボンドなどのリスク資産を買い入れをはじめました。バランスシートの拡大、投資の喚起を誘導しようとしています。
金融緩和策で市場に現金が溢れれば、その結果として水増しされたユーロの価値の減少が起きます。加えて、リスク選好により、トルコをはじめとする新興国への投資も再び増加することでしょう。対ユーロでは、新興国マイナー通貨の為替レートが上昇するとの見方ができます。実際、前述のチャートの通り、トルコリラ対ユーロのレートは、下げ止まりの感を見せています。
ECBの量的金融緩和とトルコリラ為替レートの因果関係については、以下の記事を参考にしてください。
日銀追加緩和でトルコリラ円も上昇
最後に、日本の金融策について語ります。日本では、周知の通り、アベノミクスによる量的金融緩和が現在進行形で進められています。さらに、つい先日の発表の通り、日銀が追加金融緩和策を決定しました。今後も、さらなる円安が続くことが予想できます。
トルコリラ対円の為替レートは、トルコリラ対ドルのレートとドル対日本円のレートによって決まります。冒頭に書いた通り、トルコリラは対ドルで下落基調にあるとの解説を行いました。一方のドル対日本円のレートは上昇基調にあります。つまり、トルコリラ対円のレートは、トルコリラの下落と対ドルの円安というプラスマイナス両方の要因を含んでいます。
- トルコリラ対円クロスの為替要因
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トルコリラ対円(TRY/JPY)はクロス通貨の一つです。クロス通貨というのは、米ドル基準の通貨レートに、米ドル対日本円の為替レートを掛け合わせた合成通貨です。
クロス通貨であるトルコリラ円の為替レートは、以下の要因で上下します。
- トルコリラ対ドルの下落で、トルコリラ対円も下落。
- 米ドル対円の上昇で、トルコリラ対円も上昇。
トルコリラ対円のチャートを見てみましょう。往々にして、クロス通貨のチャートで高値・安値は当てにならないのですが、上下方向の値動きの傾向を見る位には役に立ちます。
ご覧の通り、2014年11月現在、日銀の追加金融緩和を受けて、大幅な上昇基調となりました。逆に言えば、日銀の追加金融緩和のサプライズがあって、初めてトレンドが決まったと言ってよいでしょう。つまり、トルコリラの下落よりも円安傾向の要因の方が強いということです。今後もしばらくこの傾向は続くでしょう。
対円ではトルコリラは上昇傾向にあると言えるでしょう。他のトルコリラ通貨ペアやドル対円と比較して、トルコリラ円は為替差益を狙うには面白くない通貨かもしれません。ただ、スワップポイントを狙っていくなら良い選択肢であると思います。直近の値動きの中で高値にあるので、手控える個人投資家が多いようですが、むしろレンジブレイクして次の高値を目指している状況となったというのが、管理人の見方です。
まとめ
以上の通り、日米欧各国の金融緩和策と通貨レートの因果関係を解説しました。以下にまとめます。
- 対ドルでは、米金融緩和終了でもしばらくはトルコリラ安。
- 対ユーロでは、ECB金融緩和開始でトルコリラ高の予兆。
- 対円では、日銀追加金融緩和決定でトルコリラ高。
こうして見ると、これまで一斉に通貨安であったトルコリラも、通貨ペアによってはリラ高の予兆を見せるようになってきました。段々とマイナー通貨にも日の目が当たってきたように思います。おそらくは、米利上げに伴って、トルコリラを含む新興国マイナー通貨は再び上昇トレンドへと変わるのでしょう。
この記事が、マイナー通貨好きの読者の皆様の利益に貢献できれば幸いです。
※本記事は、情報提供と筆者の主張を示すことを目的としたものであり、読者の方に為替取引を強要するものではありません。FXは自己責任です。外為取引は自己の裁量の範囲で行って下さい。