トランプ次期大統領の就任式が1月20日に行われます。就任に先立ち、同氏は就任当初の100日行動計画を公表しました。一部の新興国通貨は政策公表に呼応するかのように下落。米大統領選挙から続く新興国通貨売りの傾向を加速する値動きが見られました。
今回は新興国通貨の動向と関連付けながら、トランプ新政権の行動計画を解説していきたいと思います。
トランプ新政権の行動計画概要
最初にトランプ次期大統領の行動計画発表について概要を説明しましょう。twitterの過激発言で知られる同氏ですが、なんと政策発表についてのtwitterで行う徹底ぶりを見せました。以前から公表していた大統領就任後の100日間における行動計画、通称「100日計画(100 days plan)」の公表です。
簡単に言って、政策の要旨は以下の通り。選挙期間中から公言していたTPP離脱を含む6項目の政策を行動計画に落とし込んでいます。ただし、飽くまで就任当初に実行に移す計画予定であるためか、インフラ投資などの時間が掛かる経済政策は盛り込まれていません。
行動計画と新興国経済への風当たり
既定路線通りとなれば、前述の行動計画は米政府の政策として実行に移されます。そうした期待と懸念を価格やレートに織り込むのが相場の常。確固とした裏付けは取れませんが、どうにも関連する国の通貨に思惑的な値動きが散見されます。ドル高・ユーロ安、円安は勿論のこと、政策で被害を被りそうな新興国通貨は軒並み売られていますね。
調べる限り、新政権の政策で風当たりが強まっている国はざっと言って、中国、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコ、トルコ+αと言った所でしょうか。同じ新興国でもブラジル、ロシア、インド辺りはトランプ氏当選の後も通貨レートを維持、もしくは上昇させています。以下には明暗を分けた理由をトランプ新政権の政策と関連付けて語ろうという次第です。
金融規制の緩和・環境保護規制の廃止
最初は規制緩和の指針2つについての解釈をしてみます。当初から着手する政策として、トランプ大統領は金融規制と環境保護規制の廃止を公言しました。
これらの政策は直接的に海外に対して影響のあるものではなさそうです。むしろ、国内の企業、産業の保護を前面に打ち出した政策でしょう。金融規制の廃止については、ウォール街の活性化。環境保護規制の緩和については石炭・石油・シェールガスといったエネルギー産業の保護という目的が見えてきます。
世間では多くの議論が挙げられていますが、これら2つの政策が直接的に他国に波及することはなさそうです。当然ながら、環境保護規制については欧州が反対するでしょうが、それはもう少し先の動きとなりそうです。
TPP交渉からの離脱
明確に他国に影響を与えている政策はこちらでしょう。TPPの離脱と二国間協定への切り替えです。日本のニュースでも報じられている通り、発案した当の米国が離脱を決め、環太平洋諸国は梯子を外された格好になりました。
TPP離脱を目論む理由は、二国間交渉をした方が米国の影響力を発揮しやすいからでしょう。逆に、これまで交渉を有利に進めてきた加盟各国にとってはマイナス材料です。
具体的に不利益を受ける国は、オーストラリアと隣国ニュージーランド、そして日本です。日本円、オーストラリアドル、ニュージーランドドルともに政策発表後は下落しています。もっとも、各国共に他の下落理由(例えばオーストラリアなら政策不安)もあるので、影響は限定的であるとは思います。
また、幸か不幸か、中国はTPPの交渉開始の早期段階で加盟国の席を外れ、別の方向からアジア貿易の取りまとめ役になっています。そのためか、人民元(CNY)は一時的に買われる値動きさえありました。ただ、トランプ大統領の当選後は中国に対して風当たりが強く、選挙後の為替レートが下げていることは確かです。
不法移民の流入阻止・テロ地域の移民受入停止
移民の流入措置に関する政策2つをまとめて解説しましょう。メキシコとの壁については、ニュースが様々なメディアで流れている通りです。不法移民の流入措置に関する方針は就任後も一貫して実行に移す様子が伺えます。政策発表後は当然のようにメキシコペソが下落しています。
さらに問題となるのが、イスラム教徒とテロ地域からの流入規制です。テロ地域と言えば、シリア含む中東。イスラム教徒もそのまま中東。もはやトルコが狙い撃ちされたかのような政策です。この内容を鑑みると、トルコリラの下落が加速している理由は、同国の政治・金融政策の問題だけではないとも言えそうです。
補足的な説明を加えると、米国選挙の後からインドネシア、マレーシアの株価も下落する値動きを見せています。こちらもイスラム教の国であり、さらに言えばTPP交渉のテーブルに着いた参加国でもある訳です。実際問題としては、各イスラム教国のビジネスが米国への移民規制で受ける影響は限定的ではあるでしょうが、風当たりの強さを象徴するかのように連想的な株安・通貨安となっています。
サイバー攻撃への対策強化
明確な形で表面化していませんが、どうにもトランプ政権は中国に対して良いイメージを持っていないように思います。その一つがサイバー攻撃です。中国と言えば、国を挙げてのハッカー集団を抱える国家です。ロシアも同様なのですが、トランプ次期大統領はプーチン氏に対してネガティブな発言をしていません。どうやらサイバー攻撃の対策強化は対中政策の一環であるようです。
オバマ政権時代は両国の首脳にそこそこ親密な関係がありました。それには、オバマ氏の政治スタンスにも理由がいくつかありました。その一つが中国が保有していた大量の米国債です。中国はつい最近まで世界一の米国債券を所有していた国であった訳で、ある意味、米国は財布の紐を握られていた訳です。
これが中国経済の停滞とドル高によって変化したのは最近の出来事です。中国は人民元を買い支えるために米国債を切り崩し、逆に米国は金融緩和によってドル高と債券高を実現しました。結果として、保有量世界一に踊り出たのが日本というニュースが最近流れたばかりです。
こうした背景を読むとトランプ政権の中国に対する外交スタンスがマイナスに影響すると確信が持てます。そうでなくとも、トランプ氏は「海外の安い製品の流入に反対」と公言する人物です。必然的に人民元には下落の思惑があることが導き出されます。
大統領就任後の値動きに注目
以上の通り、トランプ新政権の政策と絡めて、新興国への影響度合いを考察してみました。同じ新興国の中でも、米国とロシアとは関係が回復する兆しがあり、南アフリカやブラジル、インドには関係性の変化が見られないこと状態があります。これらを鑑みれば、フロンティア市場のカテゴリに属する国の間で生まれた差異が明確となってきそうです。余談ですが、カナダはカナダで米国の圧力をあまり受けていません。まあ、ほとんどアメリカ経済に組み込まれている節がありますから、当然かも知れません。
注意して頂きたい点は、以上の記述は「これまで」の動向を語ったものであって、将来的に継続するとは限らない点です。むしろ、個人的には新政権に対する過剰な期待を由来とするものであり、どこかの時点で転換点を迎えるであろうと考えています。そうでなくとも、1月相場というのは前年の傾向を引き継ぐ傾向のある時期です。ここから大統領就任式を経て1月も後半戦に入れば、風向きがガラリと変わる可能性も十分にあります。この記事を書いている現在の段階で、管理人は様子見・情報収集の姿勢にスタンスを変更しています。
参考記事:1月のFX市場アノマリーと短期動向
値動きに注視すべきタイミングとしては、1月後半、2月中旬、4月後半といった所でしょうか。1月後半は政策を見極めた投資家が方針を決め、2月中旬は政策の転換が起こりやすく、それを受けて投資方針も転換する可能性が高いタイミングです。4月後半を選択肢に加えたのは、ファンド勢の決算売りが起きやすいことと、選挙後100日間のご祝儀相場が終わる時期に一致しているためです。
- 参考記事:為替市場2月の傾向と対策
- 参考記事:6月相場の主役~ヘッジファンドとその習性
上記のタイミングは時期要因による需給の変化が起きやすく、それに応じたトレンドの発生・転換も起きやすい傾向があります。投資家たるもの、うまくタイミングを捉えてトレンドの波に乗りたいものですね。ご参考までに。
※本記事は管理人個人の主観的解釈を示したものであり、将来に渡る事実を保証するものではありません。また、FXは自己責任です。相場への参加については、ご自身の判断で臨んでください。