8月12日に控えたトルコ大統領選。強いリーダーシップがある一方、ワンマン政治に批判の声が根強いエルドアン首相。近く控えた選挙を前にして、トルコリラは買いか?売りか?
トルコ大統領選を前に、今日のブログではトルコの政治をおさらいします。これまでの与党政策の復習が主な内容です。それに加えて、与党勝利・敗退のシナリオ別に、ファンダメンタル要因によって為替相場の先行きを筆者なりに見通してみます。果たして、トルコ経済の展望はいかなるものになるでしょうか。
8月12日にトルコ大統領選
FX相場は閑散期となるはずの8月。トルコリラは一つの大きなイベントを迎えようとしています。トルコ大統領選です。来る8月12日に、エルドアン首相(現職)が大統領選に出馬を表明しています。
この大統領選。トルコリラの外為相場を強く動かす要因となりえます。なにしろ、トルコというのはエルドアン首相の影響力が強い国です。これまでも、中央銀行に圧力を掛け、政策金利の利下げを強要するなど、そのワンマン振りを見せつけてきました。ただし、強いリーダーシップがある一方で、ワンマン政治に対する反対意見もあるのが現状です。
与党の政策は産業振興策に当たります。トルコ経済の発展という観点からすると政治に安定感がある方がよいのかもしれません。これまでも、自動車に代表される重工業の発展を政府主導で行ってきた事実があります。新興国に資金が集まる原動力は、その成長力の強さですから、持続的な経済と産業の発展は欠かせません。
しかしながら、性急すぎる経済発展のために犠牲にしてきたものも多々あります。宗教や伝統の問題です。トルコが近代化を進めるに当たって、歴史・慣習の間に軋轢が生まれています。また、クルド問題やEU加盟に代表される外交上の課題も山積みです。昨年のイスタンブールでのデモは、その不満が噴出した一例でしょう。まだ記憶に新しい所です。このようなデモが起きた事実は、新興国と言えども政治的失態に当たります。首相続投を望むトルコ国民は、決して多くはない事態が推し量れます。
今回のコラムでは、トルコ大統領選を前にトルコの政治・経済を復習しながら、大統領選の焦点と見通しを立ててみたいと思います。
エルドアン首相勝利のシナリオ
前述のように、エルドアン首相(現職)はこれまで産業の発展を政策の要に政治を執り行ってきました。彼の政治ポリシーは重厚長大。かつての日本の高度成長期のようなイケイケ路線を採っています。エルドアン首相の属する公正発展党(AKP)は、2002年以来、拡大路線を続けてきました。
その具体的なアウトプットが重工産業の振興と、そのためのインフラの整備です。トルコは、かつての軽手工業(例えば、トルコ絨毯が有名)から、自動車や産業機械に代表される重工業へのシフトを進めています。2014年現在、工業の輸出割合は自動車・機械類・鉄鋼で計26.7%にまで上っています(外務省調べ)。輸出先は主にEUと中東。地中海をまたぐ地政的優位性を生かして、欧州と中東の工場としての地位を築きつつあります。
一方で、外交策も積極的に進めています。基本的には、平和的外交を基軸としていて、首相が諸国遊説を行ったニュースが度々報じられています。外交の最大の目標がEU加盟であり、2005年から交渉を続けています。隣国シリアの紛争にも積極的に干渉するなど、ネガティブな諸外国事情にも関与する姿勢を見せています。
トルコという国には、大きな目標があります。世界経済のトップ10に入ることです。2023年の共和国100周年に向けて、この目標に達するために、経済発展に全力で舵を切っています。この目標が与党のコミットメントであり、そのための政策を進めることが選挙で勝利するための戦略となっています。
もし、エルドアン現首相が大統領に就任するならば、トルコの政治基盤と経済成長は盤石だということです。その場合は、トルコリラ買いが進む要因となります。
与党敗北なら波乱の始まり
と、ここまでは良いことばかり書きました。しかし、冒頭に書いた通り、トルコの政治には、ネガティブな要素も多々あります。
その代表的な例が、2013年に進んだトルコリラ安です。米国の金融緩和策の煽りを受けて、世界の新興国は軒並み通貨安となりました。トルコも例外ではなく、2013年1月に対ドルでデフォルト以来の再安値を更新しています。これを巡って、中央銀の利上げ策と与党の利下げ策が真っ向から対立しています。この点、経済政策に関して、トルコという国が一枚岩ではない状況が続いています。
他にも、政治的な失策がいくつかあります。例えば最近では、政府がtwitterのアクセス規制を加えたスキャンダルです。およそ民主主義国家とは思えない、独裁国家のような一面も見せました。経済ニュースでも、その対処には批判の声が挙がっています。強引なやり口による失策は、野党による批判の格好の材料となりえるでしょう。
仮に与党敗退となると、混乱は必至です。大規模なインフラ工事や産業振興策が停滞することが容易に想像できます。さらに、現与党が10年以上に渡って政権を維持してきたことを考慮すると、政権交代は海外からは政治的混乱と受け取られることでしょう。そうなると、投資の引き上げが予想され、海外資本に頼るトルコの経済は成長に支障をきたします。
直近に行われた3月の地方選では、得票率45.5%で与党が勝利しています。この点、選挙の前哨戦は無難に消化されました。さらに、トルコ中央銀は先月、先々月と徐々に利下げ姿勢を示しており、エルドアン政権の主張が通りつつあります。現状では、与党継続が既定路線と言えるでしょう。それゆえに、ネガティブサプライズが起きたときの展開は注視したいところです。
嵐の前の静けさか
最近のトルコリラ相場を振り返ると、全く方向観の見えない展開が続いています。まるで、嵐の前の静けさです。為替相場は、こうしたもみあいが続いた後に大きく動きます。
今年に入ってから続いたいたトレンドは、リラ買いです。1月の緊急利上げ以降、トルコリラは徐々に過去の水準に戻しつつあります。ここ数ヶ月、トルコリラは緩やかに上昇を続けてきたと言えるでしょう。利下げ後にも買い入れの動きがあったことから、機関投資家には一定の需要があると考えます。米国の金融緩和策で取り沙汰された新興国のインフレ観測は、各国の自助努力で徐々に後退していると見てよいでしょう。
もっとも、トルコの場合、選挙の結果に波乱があれば話は全く変わってきます。仮にエルドアン首相が大統領選敗退となった場合は、リラは大きく売られることでしょう。政治的混乱は、通貨売りの材料です。
不謹慎な話ですが、個人的には敗退の方が相場としては面白いのではないかと考えます。トルコリラのボラティリティ向上の見込みがあるためです。相場変動が高いほど、短期トレードの妙味が高まります。一方で、長期投資の観点からも、一旦下げた所を買う方が面白いのではないでしょうか。大統領選敗退となれば材料出尽くしで、一旦、下落トレンドが落ち着くよい機会になります。以前の記事に書いたように、管理人は来年初めからのリラ高を予想しています。選挙後にリラ売りとなれば、底値で拾うチャンスが生まれます。
兎にも角にも、選挙の結果ばかりは蓋を開けてみなければ分かりません。ここは一つ、ニュートラルな状態で待つべきでしょう。政治の要素は、長期のトレンド要因となりえます。慌てる必要はありません。今は、ご自身の見通しやトレード環境を見直して、準備万端待つ機会だと考えます。
今回の記事が、読者のトルコリラ取引にお役に立てば幸いです。