トルコリラのチャート分析を語るシリーズ。今回は、テクニカル分析を用いて下落トレンド転換の可否を考察していきます。手法はダイバージェンスとボリンジャーバンドです。
2015年の終わりに安値を試したトルコリラの対ドルレート。結論から言うと、過去2015年9月に付けた最安値USD/TRY=3.0740を割り込むことはありませんでした。トルコリラ下落相場の底打ちです。
底打ちと言い切る根拠はいくつかあります。ファンダメンタルは良好でGDP成長率は上昇基調。ECBによるトルコ経済予測でも上方修正が加わるなど良い材料が出てきています。そしてテクニカル分析。底打ちを示す兆候(シグナル)が出てきました。
果たしてトルコリラの下落相場は底打ち喫したのか。今回はテクニカル分析を主軸として、対ドルレートの最安値を考察していきたいと思います。
トレンドの転換を示すダイバージェンス
長期チャートの分析を行う手法は、実はあまり多くありません。ただ、短期・長期に共通して、簡潔かつ明確な分析手法は存在します。それが過去の高値レートに焦点を当てる高値ボーダーラインとそのバリアです(リラ買いサイドから見た場合の最安値ボーダーライン)。意外とこうした単純な指標を見ている市場参加者は多いようです。
上記はトルコリラの対ドルチャート(日足長期)です。ご覧の通り、2015年9月の最高値から水平線を引いていくと、直近の為替レートがここで跳ね返されたことが分かります。仮にここを割ってしまっていたら再びドル買いリラ売り基調となる訳ですが、寸前でトレンドが反転しました。ボーダーラインが生きていて、最安値バリアが利いた形です。
注目すべきはダイバージェンスの発生です。MACDやADXなどのいくつかのインジケータで「ダイバージェンス(逆行現象)」が発生しました。トレンドの転換を示すシグナルです。
- 為替チャートのダイバージェンスとは
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直訳すれば「逆行現象」。本来、チャート上で為替レートと同じ方向に進むべき指標が逆方向に進むこと。前述のチャートであれば、MACDの指標がダイバージェンスを示している。
MACDはトレンドの強さを示す指標である。本来であれば、為替レートが上方向に進んでいるのだから、MACDもそれに準じて上昇しなければならない。しかしながら、2015年9月に高値を付けた当時のそれよりも、現在のMACDは下方に位置している。加えて、為替レートの上方への推移がストップして下方へ転換したことで上値が確定。この一連の値動きで、ダイバージェンスのシグナルも確定した。
この解釈を日本語で示すとすれば「当時の勢いが衰えた」と表現することができる。為替レートは過去の上値と同水準でありながら、より上値を追う勢いはない。「現在の為替レートは当時よりも割高である」とも言える。MACDに限らずとも、ADXのようなトレンドの強弱を示す指標であれば、同様の解釈を加えることができる。
一般には、消極的ではあるがトレンドの転換を示すひとつのシグナルと受け取られる。
底値拾いはボリンジャーバンドで
前述の通り、高値ボーダーラインに注目していた管理人は虎視眈々とエントリーのタイミングを伺っていました。他の賢い市場参加者も同様だったのでしょう。トルコリラの対ドルレートは過去最安値を更新することなく、リラ買いトレンドへと切り返しました。
上記は、トレンドが転換を迎える前後の日足チャートです。トルコリラ最安値レートが意識されていたので、そこを目指す勢いはありました。中途半端な位置で失速して反転した形です。チャート上の高値タッチが実現していれば明確なエントリーサインになったのですが、勢いが衰えるという曖昧な反転の仕方をしました。
この曖昧さはトレーダーにとって難敵で、エントリーを躊躇させます。実際問題として、反転のタイミングを捉えるのも難しかったと思います。加えて、逆張りトレードなので利益の潜在的な期待値(リスクリワードレシオ)もあまり良いものではないので、タイミングを逃したトレーダーも多かったことでしょう。
もっとも、反転のシグナルは明確に出ていました。ボリンジャーバンドのトレンド収束分析です。ボリンジャーバンドの見方には、バンド幅の拡大に伴うトレンドの開始を示す分析手法が一般にはよく知られています。しかし、トレンドの収束を捉える分析手法についても、考案者のジョン・A・ボリンジャーは著書の中で紹介しているのです。
- ボリンジャーバンドのトレンド収束分析
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ボリンジャーバンドは、ボラティリティの低下が次のトレンドを生み、またボラティリティの上昇がトレンドの収束を生むという思想を根底に持つテクニカル指標である。この思想はボリンジャーバンドの拡大でトレンド開始、バンド幅の縮小でトレンドの収束を示唆するという表現で指標に示される。
トレンドの収束を狙う場合、バンド幅が縮小を始めたタイミングがエントリーサインとなる。ただ、バンド幅の縮小という現象は視覚的・論理的に曖昧であろう。この点、ジョン・ボリンジャーは「為替レートが触れていない側のバンドが折れるタイミング」がトレンド収束の始まりであると提案している(下図参照)。このシグナルをエントリーのタイミングに代用することが可能。
損切りレートは直近最高値の少し上。利益確定の目安はボリンジャーバンドの中央線。この場合であれば、表面的なリスクリワードレシオはおよそ1:2。ただし、逆張りトレードの特徴として勝率は高い傾向にあるので、潜在的なリスクリワードレシオはもう少し高いものと考える。
一般に日足で使う場合のパラメータ設定は以下の通り。
- バンド幅:±2σ(補足的に±σ、±3σを表示してもよい)
- 期間:20日
グランビルの法則~買い1・買い2
ここまでチャート分析的にトルコリラ対ドルレートの最安値を考察してきた訳ですが、結論がまだ出ていません。最後に結論と今後の予想を語りましょう。結論としては、まだトルコリラの最安値もトレンド転換も確定していません。
上記のチャートに書き込んだとおり、トルコリラのトレンド転換が確定するには高値を切り下げる必要があるのです。下方トレンドの定義が「高値と安値を切り下げる」とされているので。不思議なことですが、この強いリラ買い相場の勢いにあっても、まだトレンドの転換が確約されていないのです。次の下落トレンドの上値いかんでトレンド転換が試されます。
ここからは予想ですが、おそらく次の下落トレンドはUSD/TRY=3.0000を再び試す展開になるでしょう。時期的にヘッジファンドの決算月に差し掛かっているので、彼らが現金化のためにポジションを決済すると考えます。なにがしかの取って付けた材料を持ち上げてくることでしょう(表面的なトレード材料なので、本質的な為替レートの値動きとは切り離して考える必要があります)。
それでも買いを急く理由は、ここから先の買いのタイミングがトレード利益の期待値を減らす方向に進んでいくためです。グランビルの法則を意識した発言と思って下さい。
上記チャートに書き込んだ通り、グランビルの法則に従えば直近のトルコリラ最安値が「買い1」、次の押し目のタイミングが「買い2」になります。グランビルの法則では買い1、買い2と進むに従って、エントリーの難易度は下がります。一方ではそれと逆比例して利益の期待値は下がるのです。
為替レートを切り上げるので、底値の時よりもトレードが不利になるのは当然ですね。損切りレートも深く設定しなければならないので、万一の場合のリスクも拡大します。まだ見ぬ利益確定のポイントも近づいています。「怖いトレードしか儲からない」と言われる理由の本質はここにあると考えます。
長期のトレンドを追う場合は、それでも欲張らずレバレッジを押さえましょう。そしてじっくり持ちましょう。次の押し目のタイミング、逃さず捉えていきたいものです。今回の内容が読者の皆様の利益に繋がれば幸いです。